田沢地ウリ

■生産地 仙北市田沢地区、桧木内地区

■時 期  7月~8月

<夏の山仕事を支えたキュウリ>

 仙北市田沢地区で栽培されている田沢地うり。栽培しているのは93才の元山守、石川さんです。

 ここ田沢地区は、江戸時代、秋田藩の山を管理する御山守だった千葉家があり、今でも100~200年になる千葉家家伝林が残されている秋田杉の産地です。石川さんは、この千葉家の山林などを管理する山の作業員でした。戦時中に山を離れたものの子どもの頃から山仕事に携わってきました。シベリア抑留時も山仕事の経験が身を助けたそうです。

 

 さて、この地ウリですが、夏の山仕事とは切り離せず、山に携えて行き、沢水で冷やして味噌を付けて食べたそうです。地ウリは生で食べられますし、持ち運びやすく、水分補給にもなります。山仕事で熱した体を冷やし、味噌で、失われた塩分も補ったことでしょう。

 

 

田沢地ウリ
田沢地ウリ

 同じ、地ウリの小様キュウリ(北秋田市)は山の鉱山労働に、こちらは山林の労働。ともに山仕事に重宝がられています。労働を支えるすぐれた野菜だったようです。
 「その頃は何にもねがったからねぇ」と石川さん。

 世の中にいろんな物が出て、普通のキュウリも植えて食べていますが、この地ウリには変えがたく、今でも晩酌用にと栽培を続けているそうです。近所の人が地ウリが欲しいと尋ねてくるとのことで、地ウリや苗を分け、時には地元の直売所で売られることもあるようです。

<サクサクした歯触りの地うり>

きゅうりは比較的丸みを帯びた形、先の方から黄みがかってきます。「黄瓜」と呼ばれる由縁です。北秋田市の小様きゅうりは、キュウリを輪切りにするとはっきりした三角形ですが、こちらはそれよりやや丸い形です。  

 苦みは感じられず、サクサクとした食感です。昔のウリにも似ています。
キュウリの青臭さが苦手な人には食べやすい味です。冷や汁(冷たい味噌汁に薄く切ったキュウリを浮かべる夏の味噌汁)、きゅうりもみ、モロキューなどに良く合います。

 

石川さんの畑

 石川さんの畑には、左一畝が普通のきゅうりで二畝に地ウリを植えています。

「種取に他のキュウリが混ざりませんか。」

とお聞きすると、混ざる前の一段目を種用にするとのこと。

 長い間独自の方法で種を保存してきた石川さんの地ウリは、あまり苦みがなく、形も大きく揃っている印象を受けました。

黄色くなって良く熟した地ウリを二つに割って種を取り出します。水でよく洗い、ぬめりをとって乾燥させた後、乾燥剤などと一緒に保存します。

 キュウリはナスなどと違って、自家受粉しないので、他のキュウリと交雑しやすく変化しやすい野菜です。きゅうりを自家採取して栽培している人が少ないのはこうした理由もあると思われます。石川さんの場合は、他のキュウリの花が咲かないうちに一段目を種取用にするとのことです。こうして何十年もこのキュウリの性質を守ってきました。驚くべきことです。
(ただし、最初の果実に種を作ると、その負担がかかりますのでその後の生育に影響を与えます。)

 取り出した種です。今、私たちが食べている普通のキュウリは、F1のため種を取ることはありません。「野菜が熟すと種ができる」こうした経験ができるのも固定種の醍醐味です。


 田沢地ウリは農業試験場で大切に保管することになりました。十分乾燥させて、保存庫で20年以上、発芽率を落とさずに保管できるそうです。しかし、本来は、研究機関の保管ではなく、できれば、田沢地区で栽培者が広がることが、この地ウリが本当に活かされることだと思います。